前回に引き続きプログラミング教育についての記事です。

前回の記事でも触れたとおり、すでに義務教育である中学校でプログラミングの教育は行われています。 プログラミングに関する内容が含まれているのは技術・家庭の技術分野の「情報に関する技術」の領域です。 今回は現在日本の学校で使われている教科書を大人買いして読み比べてみた私見を記事にします。

学習指導要領の中では「情報に関する技術」次のように定義されています。

この学習の内容は,(1)情報通信ネットワークと情報モラル,(2)ディジタル作品の設計・制作,(3)プログラムによる計測・制御の3項目で構成されている。(1)のア,イ,ウでは,情報に関する基礎的・基本的な知識及び技術について,(2),(3)では,(1)のア,イ,ウで学んだ内容を活用したディジタル作品の設計・制作とプログラムによる計測・制御について,(1)のエでは,情報に関する技術の評価と活用について指導する。
ここでは,情報に関する基礎的・基本的な知識及び技術を習得させるとともに,情報に関する技術が社会や環境に果たす役割と影響について理解を深め,それらを適切に評価し活用する能力と態度を育成することをねらいとしている。これらの内容を指導するに当たっては,情報に関する技術の進展が,社会生活や家庭生活を大きく変化させてきた状況とともに,情報に関する技術が多くの産業を支えていることについて理解させるよう配慮する。
また,情報活用能力を育成する観点から,小学校におけるコンピュータの基本的な操作や発達の段階に応じた情報モラルの学習状況を踏まえるとともに,他教科や道徳等における情報教育及び高等学校における情報関係の科目との連携・接続に配慮する。
加えて,ものづくりを支える能力を育成する観点から,実践的・体験的な学習活動を通して,情報を収集,判断,処理し,発信したり,プログラムにより機器等を制御したりする喜びを体験させるとともに,これらに関連した職業についての理解を深めることにも配慮する。

独特な言い回しですが、ITを利用する上での基本的なリテラシー、ディジタル(文科省の言い回しはデジタルではなくディジタル)なものづくり、簡単なプログラミングなどを包括的に扱っています。 中学校の技術は3年間を通じて他にも材料の加工に関する技術(木工等)、エネルギー変換に関する技術(電気工学など)、生物の生育に関する技術(農業、畜産)などの分野も学習するのであくまで入門的な内容を全員に実施し、興味を持った生徒は高校以降で専門分野に進んでいくことを助けるガイダンス的な位置づけと考えるべきでしょう。

現在の中学校技術家庭の教科書は3社の教科書が検定を通過しており、日本の全国の中学校では以下のうちのいずれかを利用しています。

東京書籍 - 意欲的かつポジティブな雰囲気の教科書

東京書籍の技術の教科書は内容がキャッチーでIT業界の目線からすると一番親しみやす教科書だと感じました。わかりやすい例としてはアニメ版宇宙兄弟が目次などでフィーチャーされており、また実世界で働く専門家としてアニメ版宇宙兄弟に携わった清水彩花さんを取り上げており、生徒にとって親しみやすいものとして取り上げようとしています。 推測されにくいパスワードの決め方、ツイッターに関する言及があったり、「ハントしようぜ!」が合言葉のネットゲームのやりすぎなどを考える内容もあったのも目に付きました。

またプログラミング言語の例として挙げられているものにもCOBOL,Java,JavaScriptを挙げているなど実務よりな例示がされている。

実習の内容もプレゼンテーションソフトを使ったディジタル絵本の作成、動画編集ソフトを使った部活動CMの作成、修学旅行の記録Webサイトの作成、LED教材を使ったプログラミング、センサカーを使ったプログラミングといった内容を挙げていて、ITに不慣れな人であれば大人でも楽しめそうなコンテンツになっている。

個人的に下記の「CSSって便利だね」という4コママンガは実務寄りすぎる、というかコンテキストのない教育現場で理解できるのか心配になるくらいですが。 CSSを理解できていないWebサイト担当者を煽れそうなクオリティを感じます。 また後述しますが、プログラミングの部分ではブロック型のプログラミング言語を備えた教材を使うことを想定しており、コーディングはHTMLのみです。

欄外ではありますが、下記のクイズも業界人からのアドバイスがあって入ったのではという気もします。

開隆堂 - セキュリティや著作権などにも力を入れた内容

開隆堂の教科書は他の2社が4章立てで解説する内容をより詳細な8章に分けており、記載内容も少し踏み込んでいます。 たとえばセキュリティの部分でSSLに関する記述があったり、著作権の部分ではクリエイティブ・コモンズについての解説があります。

実習の内容としてはプレゼンテーション、動画制作、Webページ、数あてゲーム、ライントレースカー、サッカーロボット、プログラミングLEDライトなどを取り上げています。 サッカーロボットの部分では一般の大会について触れていたり、また民間の取り組み(渋谷のIT企業)としてLife is Techについての紹介にページが割かれていたりと、興味がある生徒には外部の情報へアクセスすることを促す内容になっています。

プログラミングについては教材に付属するブロック型のプログラミング言語を使うことを想定しており、特にLEDライトについては東京書籍と同じ教材が例示されています。

これはオーロラクロックという教材で、教科書に掲載されているものは旧型で現在は後継機が出ているとのことです。

USBでプログラムを転送して制御するということでArduinoのような挙動ですが、Windows用の専用ツール上でプログラミングを行う形です。

これはやはり実態としてタイピングを伴うコーディングは実施の負担も大きいことから、こういった形になっているのでしょう。 コーディングの前にフローチャートなどを通じて手順を並べるということにも習熟できるような作りになっていました。

教育図書 - 比較的保守的な内容

最後の教育図書はプログラミング教育という意味では保守的な内容に見えました。たとえば割かれているページ数も東京書籍 63ページ、開隆堂 67ページに対して57ページと最少になっています。実習例もWebページ作り、数あてゲーム、ライントレースカーの制御とミニマムな内容です。

また実際の実習部分はVisualBasicでコーディングする形式になっており、これはおそらく学校のPCの実行環境を慮ったのだと思いますが大変そうです。

まとめ - 小学校で行われる内容は予測できそう

ここまで見てきたとおり、すでに義務教育である中学校でプログラミングは教えられています。今後、その内容が小学校に拡大するに当たっては教科書を編纂する教科書会社が共通していたり、業界構造が共通しているので似たような形で内容をより低年齢向けにしたほうなものになるのではと予想されます。

具体的には2020年に向けて教科書検定に各社から教科書が検定に出されたタイミングで、一般市民でも内容を確認できるはずです。

もちろん各学校、各教師は教科書の通りに授業を行うわけではなく必要に応じて独自の教材を使ったりする事は考えられます。 ですが、義務教育の教科書は税金から全生徒に支給されていますし、まずは参照可能なベースラインとしてこれらの内容を見ておいて損はないかと思います。 またそもそも情報以外の部分もとても興味深く、同時に購入した家庭分野も面白かったです。みなさんもぜひ機会があれば最新の学校の教科書に触れてみてください。(ネットで買えます)

高校の教科書も購入したのでこちらも今、読み進めているところです・