2022年の高校のプログラミング教育はどんな内容になるのか?(情報Ⅰ & 情報Ⅱ)
現在、高校で行われている教科「情報」は「社会と情報」と「情報の科学」のどちらかを選択する選択必修科目です。プログラミングは主に後者に含まれており、プログラミングを行わない生徒が多くを占めていました。2022年からは新しい学習指導要領に沿って全員必修の「情報Ⅰ」と選択科目の「情報Ⅱ」に再編されどちらにもプログラミングが含まれるようになり高校生全員がプログラミングを学ぶことになります。今回はその内容がどのように学習指導要領に示されているかを見ていきたいと思います。
プログラミング教育を取り巻く制度や現行の教科書については以前の記事をご覧ください。
- ディスる前に知っておくべき「プログラミング教育」のこと
- 高校で使われているプログラミングの教科書を全部購入して比較 (情報の科学)
- 中学校で使われているプログラミングの教科書を全部購入して比較
- 日本のプログラミング教育は諸外国より遅れているのか?
高校で使われる教科書は2022年に一新
教科「情報」を「情報Ⅰ」と「情報Ⅱ」に再編する学習指導要領は2022年から実施されます。 学校で使用される教科書は教科書検定を受けている必要があり、採択と供給の期間を取るために使用される2年前に検定を受けます。つまり新しい教科書は2020年の段階で内容も含めて確定するという事になります。
教科書会社は学習指導要領の内容を元に教科書を執筆しますので、だいぶ粗い粒度ですが学習指導要領から新しい教科書の内容を推測することができます。 学習指導要領は最小限の内容を条文のように記した「本文」とそれをより詳細に説明した「解説」がセットで公表されるのが通例になっています。
内容を拾い読みするだけでも従来よりも高いレベルの教育内容を目指そうとしているのが伝わってきます。 冒頭の文でも人工知能やIoTといったキーワードを強調しており、情報通信ネットワーク中心のこれまでの内容の先を示そうとしていると言えます。
改訂の前後の対照表も公開されているのでこれを見ても違いを把握しやすいです。
各科目の内容の概要は次のとおりです。 ITリテラシー的な要素は引き続き存在していますが、以前よりも明確に「プログラミング」が必修部分で言及され、また「データサイエンス」という言葉が入ってきた点も目立つ所です。
- 情報Ⅰ (必修)
- (1) 情報社会の問題解決
- (2) コミュニケーションと情報デザイン
- (3) コンピュータとプログラミング
- (4) 情報通信ネットワークとデータの活用
- 情報Ⅱ (選択)
- (1) 情報社会の進展と情報技術
- (2) コミュニケーションとコンテンツ
- (3) 情報とデータサイエンス
- (4) 情報システムとプログラミング
多くの反響があった高校の教科 情報の教科書の記事ですが、高校で行われる内容は2022年からさらに改訂されます。その内容が学習指導要領にかかれています。これまで選択必修の情報の科学にあったプログラミングが全員必修の情報Iに入ります。本文の冒頭に人工知能、IoTといった文言も。 pic.twitter.com/Xvo0cRzAuO
— Yusuke Ando@プログラミング教育に詳しい (@yando) 2018年8月4日引き続き「プログラミングそのもの」を学ぶのではないが、社会の問題をプログラムを作成・実行したりシミュレーションを行って解決するという理念。情報IIにおいてはビッグデータや人工知能も活用する。
— Yusuke Ando@プログラミング教育に詳しい (@yando) 2018年8月4日
気象データのAPI活用、キーバリューストア、テキストマイニング、タグクラウドなども。 pic.twitter.com/fWJkcqb28X
情報Ⅰ - 従来の情報教育に加えてオープンデータ、API、テキストマイニングなどが登場
情報Ⅰはこれまでの情報教育で行われてきたオーソドックスな内容を一通り含みつつ、さらに発展的な内容が追加されています。
情報セキュリティや関連するモラルなど、IT利用者としてのリテラシーなどは既存の教科書とかなり似た内容になりそうです。 同様に情報のデジタル化や符号化、ネットワークに関する内容もほぼ変化無いでしょう、
一方で新しいのが例としめされている気象データのオープンデータをAPIで取り込むという学習です。 これまでの実習内容はスタンドアロン環境で実行できたり、あるいはアンプラグドなコンピューターを使わない実習も考慮していました。 ですが、オープンデータをAPIで使うとなると普通に考えればオンラインな環境での実施になりそうです。 (オフラインなエクセルの環境で上記の実習が出来るライブラリとかが出るのだろうか)
同様に画像認識、音声認識のライブラリの使用やテキストマイニング、タグクラウドなどといった例も実世界ではよくあるサンプルですが教室という環境で実習できるようにするにはかなり工夫がいりそうな気がします。 関連してこれまで実習をほぼ行わない実施が可能だった点に先回りする形で実習を行う事を推奨する文言が入っています。
比較的オーソドックスな内容の情報Ⅰも踏み込みを感じる。情報社会の変化には人工知能の発達の意味について考える。いわゆるシンギュラリティ的なトピックが。プログラミングにはオープンデータをAPIで利用する。ライブラリ、関数などのより実践的なトピックが追加。KVS、テキストマイニングも情報Ⅰ。 pic.twitter.com/12srBE7xeq
— Yusuke Ando@プログラミング教育に詳しい (@yando) 2018年8月4日
実習を行う時数は明示されていないが、実習を強く求めている。つまり設備が不足しているので実習を回避するような現状からの脱却を求めている。
— Yusuke Ando@プログラミング教育に詳しい (@yando) 2018年8月4日
教材をトレンドに合わせて見直すことの指示。学習指導要領は10年おきの改訂、トレンドが変われば指導要領の改訂を待たずにキャッチアップせよと。 pic.twitter.com/iFsvcU8nw8
情報Ⅱ - データサイエンスとソフトウェア開発プロセス、VRなども見据えた専門的な内容
情報Ⅱは選択科目です。つまり情報Ⅰを履修した生徒が追加で履修する発展的な内容です。
まず目を引くのがデータサイエンスや機械学習を全面に押し出した内容です。現在の時点からすると最新の内容といって良さそうです。 手書き文字の認識と学習データを使うことで認識率が上がるという学習の例が盛り込まれている事には驚きました。 これが例えば5年後にどう見えてくるのかというのは難しい問題かと思いますが、カリキュラムを見直す段階で可能な限りブラッシュアップするというのは妥当かと思います。
またグループワークやソフトウェア開発プロセスが盛り込まれているのも情報Ⅰとの違いです。 おそらくスキルにばらつきがある状態でモジュール分割を伴うようなグループワークは難しいということでこのような形になったのでしょう。 情報Ⅱはコンピューターサイエンス、ないしはソフトウェアエンジニアリングを進路として選ぶような生徒を想定しているように見えました。 文中ではサーバーサイドプログラムを含む掲示板システムの作成が触れられていました。新人研修のようですね。
情報Ⅰを踏まえた上で選択科目である情報Ⅱはデータサイエンスと協働作業を盛り込んだ意欲的な内容。人工知能やデータを活用したマーケティング、データ分析(回帰、分類、クラスタリング)、手書き文字の認識、訓練データの利用。
— Yusuke Ando@プログラミング教育に詳しい (@yando) 2018年8月4日
MNIST絶対出てくるやつや。 pic.twitter.com/BRpzLVumlR
情報Ⅱにはソフトウェア開発プロセスとプロジェクトマネジメントも含まれる。設計、実装、テスト、運用、モジュール分割、プリントデバッグやデバッグツールの利用法とおぼしき記述も。 pic.twitter.com/ovg9Q7rcLt
— Yusuke Ando@プログラミング教育に詳しい (@yando) 2018年8月4日
また仮想現実、拡張現実を使ったコンテンツ作成の実習についても言及があります。 これまでも広義のVRとしての仮想現実は言及がありましたが、この内容はヘッドマウントディスプレイを使うような場面を強く想起させます。 また時代に応じて教材を見直すことを勧告しているので、ここに挙げた内容がそぐわない場合は指導要領の改訂を待たずに入れ替えていくことになるでしょう。
情報Ⅱの実習内容には仮想現実、拡張現実、複合現実を使った作品の制作も言及されている。つまり、学校にHMDが必要になる? pic.twitter.com/ArvCz98Dle
— Yusuke Ando@プログラミング教育に詳しい (@yando) 2018年8月4日
まとめ - 今後の動向に注目
2020年の高校教科書の検定までには機械学習やテキストマイニング、気象データのAPI取得などをカバーするような教科書が執筆される。
— Yusuke Ando@プログラミング教育に詳しい (@yando) 2018年8月4日
同時に教材の開発も行う必要が。関連しそうなサービスやツールがあれば教育向けの開放をするといいのかもしれない。かなり高い確率でTensorFlowを使う教材が出そうだ。 pic.twitter.com/2iQe6oC7rz
ここまで見てきたように新しい高校の指導内容は社会人向けの新人研修並、あるいはそれ以上の内容になりうる内容が提示されています。 特に象徴的な機械学習を使った手書き文字の認識や、APIを使ったオープンデータの取得は個人が扱えるようなコンテンツはありますが、学校という場で一度に多くの人数が扱いやすい教材はまだ存在していないように思います。
この部分を各教科書会社や教材提供企業がどのように解決するのか、あるいは各種プラットフォームの提供するコンテンツが学校で利用できるような筋道が作られていくのか非常に興味深いです。
特に検定を受ける教科書については一般市民でも閲覧可能な展示会が予定されており、今後もパブリックコメントなどが開催されるかもしれません。 ぜひとも今のうちから推移を見守っていければと思います。