技術イベントへのポジティブアクション導入のすすめ
技術カンファレンスの登壇者や参加者に女性が少ないのは公平な競争の結果なのでしょうがないと考えている方が多いようです。 これは形式的平等ですが、実質的平等という面では改善できる余地があります。問題の背景と積極的是正措置、ポジティブ・アクションのアプローチについて紹介します。
形式的平等と実質的平等
形式的平等と実質的平等。これは「平等」と「公平」、EqualityとEquityの話にもつながる。日本はEquality の概念が強いという話だと理解した。 #DevFestWomen pic.twitter.com/YBbkCBOAmE
— Yusuke Ando (@yando) October 14, 2019
女性はCFPを出す前の時点で男性よりも努力が必要です。例えば日本では家事や育児の多くは女性が負担していますし、独身であっても女性には男性にはないさまざまなコスト・労力を求められます。 男性と同じだけの時間と労力をCFPにはかけられません。
応募条件や選考プロセスが性別不問になっているだけでは、元々存在している格差を是正することは出来ません。
差別の再生産、強化のリスク
「どちらにつくか、選ばねばならない。
— 渡邉葉 (@YoWatShiinaEsq) January 21, 2018
中立は、抑圧者を助けることになる。
中立が、被害者を助けることはない。」
at Jewish Community Center, Manhattan pic.twitter.com/q5G4TbrvFm
「女性が少ないのは競争の結果だからしょうがない」というメッセージがコミュニティから発せられる事は女性の自信を奪います。 選考が厳しいというメッセージは女性の関心を下げるという現象もあります。 CFPを出すかどうか迷った人が応募しないといった事が起こるでしょう。
またカンファレンスの登壇者はコミュニティのロールモデルになる可能性が高く、単なる選考結果以上の効果があるでしょう。 公平なプロセスであっても間接的に差別を再生産、強化している事になりえます。
こういった状況を改善するには「クオータ制」「候補者リスト」などの施策が政治や学術分野で行われています。 また「スティグマ」にも気をつける必要があります。
クオータ制
多くの人がイメージする女性を何人採択する枠を設ける方法。ただし女性だから選ばれたという認識を本人や周囲に与える事は劣性の烙印(スティグマ)と呼ばれ忌避されます。 応募と選考プロセスに工夫が必要です。
候補者リスト
選考前の候補者の数で女性を一定の数にするように努力する手法です。 選考前のリストが現在の男女比と同じであれば同じ状況が再生産される可能性が高く、CFPを集める際に積極的な広報や交渉をする形です。
期限付き達成目標
国家公務員の役職者に占める女性の割合、計画策定時と目標に対して順調に推移していることがわかる。
— Yusuke Ando (@yando) December 31, 2019
期限を切って目標を決めるの大事なんだな。いわばOKR。 pic.twitter.com/i71L9eSWzE
ポジティブ・アクションを実施する際には期限付きの数値目標を定める事も多く行われています。 例えば男女共同参画局のサイトには各分野におけるジェンダーギャップをどのように改善させていくかの現状と目標が数値化されています。
また女性があまりにも少数であると自分の意見を言いづらくなるということもわかっており、なんらかのクリティカルマスが存在していると推測されます。 少数派が3割程度になって初めて自由な発言がしやすくなるようと考えられています。
これは勉強会やカンファレンスをイメージしてもわかりやすいと思います。30人の勉強会で9人が女性という状況であれば女性の参加者はリラックスして発言ができそうです。
今の国会議員は、まだ女性の数が少なすぎるんです。男性社会が温存されている中で、1人か2人がピックアップされる場合、その中に選ばれないといけない。だから、権力者の男性の方を向いた行動にどうしてもなってしまい、同志の女性を向いた仕事ができる環境にまだなっていない。 10人の男性の中に、女性が1人いれば「お人形扱い」。2人いれば「仲違いさせられる」。3人いて初めて「自分」になれるんです。だから、3割に達すれば絶対に変わりますから、もう少しです。
技術イベント主催者への提案
このような施策は積極的差別是正措置、ポジティブ・アクションとして研究されています。 コミュニティを代表する人々を選考するという意味では政治と技術カンファレンスは似ているかもしれません。
現在は各種イベントでアンチハラスメントポリシーたCoCを定めるという取り組みが多くなっています。 こういった取り組みはとても大事ですが、一方で受動的な対応でありお題目になってしまう可能性もあります。
現状の問題を認識し、積極的にアプローチする為に一連のポジティブ・アクションを技術イベントの運営へ取り入れる事を検討してみてはどうでしょうか?