マネージャーとしてチームを率いる際、自分が正しくチームをマネージメントできているのか? 誰か偉大なマネージャーに教えを請いたいと思う人は多いのではないでしょうか?

一方で、現場でマネージメントに関する手厚い指導を受けられる機会は少なく、日々の業務に忙殺されてしまうのが現実かと思います。

そんな中、海外の上司や同僚から勧められた書籍からは非常に多くの事を学ぶ事ができました。 どの書籍も非常に多くの批評を経て評価されており、秀でた著作は翻訳されています。

日本で日本語で書かれた書籍も読みやすく、血肉になります。 一方で翻訳書はクセはあるものの、日本からは得づらい情報や面白いエピソードを提供してくれます。 また書かれている内容を共通の概念としてグローバルなマネジメントチームと会話できるというのも助かる点でした。

今回は自分が読んできたマネージメントに関する翻訳書の中で特におすすめのものを7冊ご紹介します。

今回、紹介する書籍

この記事はEngineering Manager Advent Calendar 2021に参加しています。

マネジメントと経営の入門に最適 「HIGH OUTPUT MANAGEMENT」

1998年までインテルのCEOを務めたアンドリュー・グローブの著作。1983年に出版された書籍ながら、時代を超えた普遍性があり今でも充分に役立つ書籍。 内容自体はテック企業に限らない一般的な話をしているが、ワン・オン・ワンミーティングや組織作り、評価や目標設定の手法など多くのテック企業で行われている管理手法の原点に触れられる本。

書籍全体を通じて序盤は経営とマネジメントの基本的な事項、中盤はチームの運営、後半は組織作りや評価とより高度な問題を取り上げているのが特徴。 新任マネージャーなどに課題書籍として指定される事も多く、またある程度経験を積んでから読み直すと発見のある非常にカロリーの高い書籍です。

マネージャーをしたことがないがマネージャーをやることになった、大企業で行われる知識がほしいといった人に最適です。

私も読み直したところ、過去に務めた企業で起きた出来事などが想起されるような記述に気づきこの本のメッセージの色あせなさを感じ巻した。

一点、目標設定の手法についてはMBOと呼ばれる概念が登場するが、この部分では近年ではOKRに置き換えられていることが多いのでOKRに関する書籍も合わせて読むと良いです。

OKRに関する解説書の決定版 「Measure What Matters」

2018年出版。 日本のIT企業でも導入が進んでいるOKRを使った目標管理手法を解説する書籍。

OKRについてはさまざまな書籍があるが、これを読むのが手堅い。 この書籍は単なる解説書ではなく、さまざまな企業や団体でOKRによる目標管理を行った実例を纏めている。

エピソードの中には自分にとって身近に感じやすいものや興味が惹かれるものがある可能性は高いと思います。 たとえばOKRの内容のどれくらいをトップダウン、ボトムアップで決めるかといったトピックが論じられていたのはとても読んでいてホッとしました。

OKRは名前は非常に有名になりましたが、実際に運用すると自分たちの組織や事業に落とし込む過程で試行錯誤が生じるのが当然です。 その試行錯誤の労力を減らしてプロジェクトや事業の成功確率を高めてくれるという意味でこの一冊は高い価値があります。

フィードバックの与え方に着目 「GREAT BOSS(グレートボス)」

2017年出版。 残念ながらこの一冊は邦題の「GREAT BOSS(グレートボス) ―シリコンバレー式ずけずけ言う力」というタイトルが印象を異なるものにしてしまっている。 マネージャーが部下にどのようにフィードバックを与えるか、どのように評価や育成を行うのかについての書籍。 原題はRadical Candorで「徹底的なホンネ」のようなニュアンス。効果的なフィードバックの与え方について考えている書籍で、ボスがズケズケいうというような辛い話ではありません。

下記の講演は英語ですが、最初の5分ほどで書籍にも出てくる最初のエピソードに触れています。

効果的にフィードバックを与える為のフレームワークやテクニックがグーグルやアップルで経験したエピソードを元に解説されておりとても読みやすいです。 最終的に解雇に至るようなすれ違いがどうして生まれてしまったのかという実例を知っておくことはマネージャーとしてメンバーにフィードバックを行う上で知っておくと心強い内容かと思います。

著者のキムスコットは女性で、女性マネージャーにとってのロールモデルを感じる内容でもある点も強調しておきます。

多国籍・多国間事業やチームに携わる人必見 「異文化理解力」

2014年出版。 原題はThe Culture Map

世界中の国々の異なる文化を背景におこるすれ違いや誤解についての書籍。 顧客や同僚、上司、部下にこれまで接した事のない国の人がいる状況の際には有用なエピソードが多い。

グローバルな環境で働いている人にとっては「あるあるネタ」のようなものが全世界規模で纏められている。 メンバー、ステークホルダー、顧客、パートナーなどあらゆる状況で別の文化圏と接する人は必読の一冊といえます。

複数の文化圏出身のメンバーが混在したチームではどのようなコミュニケーションを取るのが良いのか?など実際に失敗をしてしまうとダメージの大きい場面が数多く紹介されています。

またこの書籍を読むことで日本人がどのように見られているのかというのを学ぶのも面白い点です。 ちなみに著者のエリン・メイヤー氏はその後、ネットフリックスの文化に関する書籍も出版しており、そちらは読んだことがある方もいるかもしれません。

企業やチームでの無意識バイアスの克服を考えるのに最適 「Work Design」

2018年出版。 原題はWhat Works

人材採用、人事考課などさまざまな局面で発生する無意識バイアスとそれを避ける為の施策などが丁寧に紹介されている書籍。 無意識バイアスに関する解説などで引用される事例などを丁寧な語り口で紹介している。

ジェンダーに関する書籍の中でも特に読みやすく、ダイバーシティに関する書籍として最初に一冊にも適していると思います。 女性メンバーの退職者が多い、採用が進まないといった問題に直面している場合に読んでみると、採用やキャリア開発についてさまざまな改善案が思い浮かぶのではと思います。

究極の部門間折衝と意思決定「TEAM OF TEAMS」

2015年出版。

アメリカの対テロ戦争において当初後手に回った米軍がどのように意思決定と情報共有のプロセスを再構築事例。チーム間、部署間の協働のヒント。 戦争という極めて要求の高い環境で起こった部門間調整の摩擦と、それを解消する事で対局の勝利を得るという書籍。

部門間の調整がうまく行かないというのは日本の大企業や役所のイメージのようで、実は米軍ですら問題を抱えていた事がわかる。 またアメリカのテック企業では軍属経験のあるエンジニアなども多く、知見を学ぶ先として米軍や海兵隊に関する書籍というのはわりと話題にのぼります。 ミリタリーなどに興味がある人であれば非常に読みやすい一冊でしょう。

新人マネージャーの試行錯誤を追体験 「フェイスブック流 最強の上司」

2019年出版。 原題はThe Making of a Manager

元FacebookのVPの女性、ジュリー・ズオによるマネージャーの仕事とは何か、適正、技術の書籍。 マネージャーがどのようにステップアップしていくかという事例をたくさんのエピソードで紹介しています。 マネージャーになって初めてのミーティングなどでの焦り、会話の例など実感しやすい内容が多くとても読みやすいです。

また彼女はデザイン部門の責任者だったという事で、エンジニアリングチームのマネージメントとデザインチームのマネジメントの共通性も見て取れる一冊だと思います。 こちらの書籍も女性マネージャーが書いているということで、ロールモデルを探しているような人にとっても良いと思います。

さいごに

今回、これまで読んでみた書籍の中からピックアップして思いましたが、原著のタイトルと日本語のタイトルの乖離がかなりあります。 結果的に元のテーマと少し違う色がついている部分があるのと、海外の人と会話をする時にこまることが多いですね。(これは映画などもそう)

技術書などと違って一般のビジネス書に近いカテゴリは数が多く良い書籍を探すのが大変です。 ここで上げた書籍はIT企業で働く管理職やエンジニアリングマネージャーであれば興味をひく題材やエピソードが多く読みやすいと思います。 また実にさまざまな企業、とくにアメリカのIT企業での事例が取り上げられている事でその空気感や課題感を感じることもできます。

年末年始の読書の候補に加えてみてはいかがでしょうか。 読んでみた感想などをツイートなどでやりとりできれば嬉しいなと思います。