2012年に米国 Yahoo!のCEOの就任したマリッサ・メイヤー氏はメディアに取り上げられる事も多く、なんらかの形で名前を目にした方も多いかと思います。 大手IT企業でCEOを務めた数少ない女性という点が注目されますが、CEOとしての業績や来歴については知らないという人も多いかと思います。

2015年に邦訳が出版された「FAILING FAST マリッサ・メイヤーとヤフーの闘争」はCEOに就任して少し経った時点までの業績や、米国 Yahooの成り立ちなどを非常に詳しく記したノンフィクション書籍です。タイトルからだとイメージしづらいですがYahooとGoogleの成り立ち、発展の経緯についても詳しく書かれています。(その後2017年にベライゾンへの事業売却と退任は当然ですが、本書には含まれていません。)

マリッサ・メイヤーはGoogleで初めてのプロダクトマネージャーを努め、様々なプロダクトを手掛けGoogleを象徴する人物でした。そこで培った経験を元にYahooの経営の立て直しを図ります。そこで出てくるエピソードはプロダクトマネジメントをどのように企業に取り入れていくかという最近の話題に通ずる部分が多くあります。

個人的にとても印象に残った点をいくつか紹介します。

働く女性のロールモデルとしてのマリッサ・メイヤー

マリッサ・メイヤーはスタンフォード大学で計算機科学を学び、黎明期のGoogleにエンジニアとして入社しました。女性として一人目のエンジニアであり、社員番号も20番だったという事で実力と情熱が多く求められる環境だったと思われます。 Googleではさまざまなプロダクトを手掛け、特にUXに着目した改善を推進したようです。今では日本でも多くの人が中継を見ているGoogle IOではキーノートスピーカーを務めている動画も残っています。

その後はVP(日本語で言うところの副社長)にまで頭角を現し、YahooではCEOを務めるということで非常に成功したキャリアを築いた女性です。一方であまりロールモデルとして名前が上がることは無いように思います。その理由はおそらく自身の出産の際の発言が原因です。

マリッサ・メイヤーはYahooのCEOに就任直後に出産し、2週間という短期の育児休暇の後に職務に復帰しました。またその後、メディアで育児について聞かれた際に「育児は思ったよりもかんたん」という旨の発言をした事が思わぬ反響を呼びました。またその後、社内の従業員に向けては長い育児休暇を取ることを推奨する呼びかけを行わざるをえないという事態にも繋がったようです。

紆余曲折があったとはいえ、エンジニアとしてキャリアをスタートし、大成した人物の一人としてロールモデルの一つになりえるのではと感じました。またCEOの職の選考を受ける際には妊娠している事を取締役会には告げなかったが、隠していたわけでもないというエピソードも非常に印象に残りました。

また初めて知りましたが、マリッサ・メイヤーはYahooにとって二人目の女性CEOです。マリッサ・メイヤーよりも以前にキャロル・バーツという女性がCEOを務めています。 Autodeskのトップを経てYahooに来たキャロル・バーツの非常に個性的な人物像も本書では紹介があります。

アルゴリズムによる最適化か、人間の手によるキュレーションか

マリッサ・メイヤーはGoogleとYahooのそれぞれで、UXを高める為には人間の手によるキュレーションが必要であるという信念に基づいて活動します。それはアルゴリズムによる最適化を進める他の幹部や既存のプロダクトとの衝突に繋がります。

この主張はアルゴリズムや機械学習による弊害が知られる現在の方が説得力があるように感じます。しかし当時はプロダクトや事業のスケールの速度が重視されたのか、試みは徐々に行き詰まっていったような印象を受けます。

プロダクト中心のアプローチでの経営

マリッサ・メイヤーはGoogleで初のPdMであった事もありプロダクトを中心として組織運営を目指していました。GoogleとYahooのどちらでもUIの色の決め方や細かなKPIに注視したマネジメントを行っています。 特にYahooのCEOに就任してからは、プロダクトマネジメントが行われていない企業にプロダクト中心の優先度を付けるような立ち回りをしています。

象徴的なエピソードとして出てくるのはモバイルの対応です。就任当時のYahooにはモバイル専任の人員があまりにも少なかった事から大幅なテコ入れを行っています。このエピソードは現在の視点からみると非常に理にかなっているように見えます。

またメトリクスに関しては、OKRの導入も進めています。 しかしこのOKRの導入は業績評価と連動した仕組みとなり、従業員からの反感にも繋がりました。

またYahooがどのように収益を確保していくのかという部分は広告業界やメディアに関わる人にとっては面白く読める部分かと思います。実際にこの書籍の中でもマリッサ・メイヤーがどのように広告事業、検索事業の立て直しを図るかという部分は大きく取り扱われています。

孫正義とYahooの関わり

本書はマリッサ・メイヤーがCEOに就任するまでのYahooの歴史を非常に細かく描写しており、時折登場するのが孫正義です。

Yahooやアリババへの投資にまつわるエピソードは非常にドラマチックで、日本の読者にとっては面白い部分です。 投資金額を決める際の会話や、会合を決めるスピーディーさなど日本のメディアから見える姿よりもヒーロー性があります。Yahooと孫正義の関係に興味がある人にはぜひ読んでみてほしい部分です。

幹部人事の難しさ

Yahooの歴史の中には非常に多くの権力争いがあった事が多くのページを割いて語られています。創業者、投資家、取締役会、外部から招聘した人材が次から次へと登場する様子は大河ドラマのようでもあります。 またマリッサ・メイヤーも就任後にさまざまな幹部人事を行っており、それによって生まれた軋轢や現場の様子が描かれています。例えば古巣、元Googleの人材を幹部に登用するか、ハッカソンで生まれたプロダクトの責任者に誰を据えるのかといった部分はIT業界で働く人にとっては身の回りに起こる場合が想像しやすいかと思います。

これらの部分は政治ドラマをIT企業を題材として見れるような部分もあり、また企業経営の内幕を想像するヒントになる部分かと思います。

まとめ

印象に残った点を紹介してきましたが、気になった方はぜひ本書を読んでみて頂ければと思います。 2015年に出版された書籍ではありますが、現在の視点でみて非常に発見が多くありました。 日本ではYahooは非常に有名で、色々知っているつもりだったという先入観を大きく覆す内容の連続でとても満足です。