テック業界でのダイバーシティを考える題材になる書籍、12選
ダイバーシティとインクルージョンに関する話題を目にすることが増えて来ました。もちろん日本全体の課題ですが、特にIT業界において女性の割合をどのように増やしていくか、主にイベントなどで発生するハラスメントをどのように減らしていくかという形で関心を持つ人が増えてきたように思います。
学生時代にジェンダーの講義は履修していましたが、この分野の書籍などをあまり読んだ記憶が無かったのでここ数ヶ月色々と読んでみた中で特に良かった書籍を紹介します。
- 目次
- お姫様とジェンダー―アニメで学ぶ男と女のジェンダー学入門 (ちくま新書)
- はじめてのジェンダー論 (有斐閣ストゥディア)
- LEAN IN(リーン・イン) 女性、仕事、リーダーへの意欲 (日経ビジネス人文庫)
- WORK DESIGN(ワークデザイン):行動経済学でジェンダー格差を克服する
- ポジティヴ・アクション――「法による平等」の技法 (岩波新書)
- ハラスメントの境界線
- ロケットガールの誕生: コンピューターになった女性たち
- 世界と科学を変えた52人の女性たち
- 戦う姫、働く少女 (POSSE叢書 Vol.3)
- 日本のポストフェミニズム :「女子力」とネオリベラリズム
- 性とジェンダー(別冊日経サイエンス)
- Girls Who Code 女の子の未来をひらくプログラミング
入門向け
ダイバーシティに関する問題があることは感じるけど、どういった種類の問題があるのかわからないというのが多くの人の感覚だと思います。以下の3冊は初学者にとってわかりやすく問題の定義と事例を紹介しています。
お姫様とジェンダー―アニメで学ぶ男と女のジェンダー学入門 (ちくま新書)
白雪姫、シンデレラに代表されるような映画のストーリーがどのようなジェンダー問題を含んでおり、それを見る人々に影響を及ぼしているかを解説していく一冊。もともとは大学で行われていた講義の内容と学生が提出した感想などで構成されているのでとてもリアルです。2003年の本なのでその後のディズニー映画の価値観がアップデートされていった事は反映されていませんが、ジェンダーを学んだ事がない人が大学の講義を体験できるとても優れた一冊です。
実際の講義を受講した学生の感想文が出てくると一気に面白くなってあっという間に読み終わりました。 新書ということもあり、分量も抑えめで今回紹介している書籍の中でも最初の一冊におすすめです。
お姫様とジェンダー (若桑みどり) 読了。
— Yusuke Ando (@yando) September 19, 2019
大学で行われているジェンダー学の講義を疑似体験できるような本。ジェンダー学の基礎に少し触れたあとにディズニーの映画の物語を題材にして学生に議論させるという流れ。
学生の感想がとてもリアルで自分が参加した気分になる。https://t.co/dWsD9LLYRE pic.twitter.com/fWA3vIpvca
はじめてのジェンダー論 (有斐閣ストゥディア)
こちらも書名のとおり、ジェンダー論の入門書としてさまざまなトピックの基本的な情報や論点、データなどがまとまっている書籍です。最近さらに話題になる事が増えたトランスジェンダー、ワークライフバランスのような話題からジェンダーとはといった基本的な定義までカバーしています。大学の教科書を想定しているような体裁で各章の最後にはディスカッションにつながるような問いがあります。
興味がある人同士で輪読会などをすると面白いのではと思います。
LEAN IN(リーン・イン) 女性、仕事、リーダーへの意欲 (日経ビジネス人文庫)
フェイスブックのCOO,シェリル・サンドバーグの著作でベストセラーと言ってもよい一冊です。政府関係の仕事やグーグル時代、またその後フェイスブックに移るまでに起きた様々な出来事を通じて女性のキャリアに関する問題を論じています。女性がキャリアを積む中で遭遇するさまざまなシチュエーションを疑似体験できる一冊です。
またこの書籍では状況を変える為には女性がより高い地位につき力を持つことを勧めています。「全力でゴールをめざしたい、そう考える女性」の為に書かれた書籍です。
こちらはベストセラーですので文庫も出ていますし、読んだことがある方も多いかと思いますがそうでない方にとっては一読の価値があると思います。
興味に任せて本を買ったらカオス。 pic.twitter.com/nEV1xQLFlc
— Yusuke Ando (@yando) March 30, 2019
格差是正の手法について
女性を取り巻くさまざまな問題は歴史的にも色々と認知され検討されてきました。実体験を元にしたボトムアップ型の活動もありますが、過去の知見を元にさまざまアプローチについて検討し、また事例を紹介している書籍です。
WORK DESIGN(ワークデザイン):行動経済学でジェンダー格差を克服する
自由競争の結果、なぜかアンバランスな結果が発生してしまう原因として近年注目が集まっているのが無意識バイアスです。さまざまな事例と改善施策を例に上げて、いかに人々が無意識バイアスの影響を受けているのか、そしてそれに対して意識的な是正を行うことに意味があるのかを説いています。
同じ経歴でも男性か女性かで印象が変わる「ハイディとハワード」のような有名な事例やオーケストラで演奏する音楽家の試験をカーテン越しに行うようにしただけで女性の合格率が上がった話などの強力な話が次々に出てきます。この書籍を読むと自分の身近にある様々な制度にバイアスがかかっているのではと気になってくると思います。
またこういった研究をしている著者自身もバイアスがある事を自覚しており、子供が保育園に入る際に男性保育士であることに不安を感じたエピソードなどがあったことが印象的です。
社内の制度設計などに携わる人には頷ける内容も多いと思います。
ワークデザインを読み始めた。バイアスは誰もが持っていること、ダイバーシティの向上がなぜ競争力の向上になるのかが説明されている。https://t.co/SJmhEfgTVT pic.twitter.com/dFq8j8HWIc
— Yusuke Ando (@yando) February 24, 2019
ポジティヴ・アクション――「法による平等」の技法 (岩波新書)
ポジティブアクションは男女格差を是正する為に数値目標などをもって積極的に採用者数などに働きかける手法です。アファーマティブ・アクションという言葉をご存知の方もいると思いますが、アファーマティブ・アクションは人種格差の是正の活動で男女格差の場合はポジティブアクションと呼びます。
この書籍ではおもに議員に占める女性の数を増やしていく事、各国の事例などを紹介しています。イベントの運営者や採用に携わる人などに特に参考になる一冊です。
実社会の事例がたくさんありそうな本を購入。
— Yusuke Ando (@yando) April 17, 2019
こういった話題の本は電子書籍が少なく紙になることが多い。 pic.twitter.com/kkOaTs7zJI
ハラスメントの境界線
セクハラあるところにパワハラもあるといったようなハラスメントがなぜ起きるのか、また生々しい日本での事例などを取り扱った本です。ハラスメント対策をアップデートせよと男性の経営者に啓蒙するようなテイストになっており、いかに企業にとってリスクにつながるのか、ポリシーを決めただけでは不十分といった所も抑えています。また心理的安全性や同質性が高い組織のリスク、広告の炎上といったかなり新しい出来事もカバーしており、ハラスメントを許さない文化をつくることが大事であることがわかる一冊です。
「ハラスメントの境界線」読了。
— Yusuke Ando (@yando) October 31, 2019
帯の内容からするとセクハラチェックリスト的なものかと思いきや、セクハラが起こる環境(=パワハラも起こる)についてや文化など気づきが多い。心理的安全性や広告の炎上といった事例もカバーしていて時代にあった内容だった。https://t.co/2NiQU8QqRT pic.twitter.com/ekwdxSsW5n
IT業界と女性の歴史をさらに深堀りする
ロールモデルが居ない、というのはよく言われる話ですが歴史上、コンピューターと女性の関わりはとても深くむしろ女性が切り開いた分野であると言えます。科学の歴史にふれる書籍を読むとコンピューターが女性のものだった時代のエピソードにふれることができます。
ロケットガールの誕生: コンピューターになった女性たち
NASAの宇宙開発に携わった女性達に関するエピソードをまとめた書籍です。ロケット開発などの裏側でJPLのコンピューター室で活躍する女性にスポットを当てた書籍です。日本による真珠湾攻撃が起こり、人々が恐怖するさまやミサイルなどの兵器の開発といった出来事がアメリカの視点で描かれているので個人的には色々と驚きがありました。この書籍からわかる最も象徴的な出来事は「コンピューター」が膨大な計算を担当する女性たちの職業名であり、彼女らが使う道具が紙とペン、計算尺、計算機と徐々に進歩しついには高度な計算機がコンピューターと呼ばれていく過程を理解できます。ただ話の本筋はあくまでロケット開発についてなのでコンピューターの話と思わないほうが楽しめるでしょう。
ロケットガール読んでる。知識が薄い時代背景なので面白い。 pic.twitter.com/53u5nwQvp5
— Yusuke Ando (@yando) November 3, 2019
世界と科学を変えた52人の女性たち
この本は科学の歴史上でさまざまな苦難を味わった偉人の業績をそれぞれ数ページにまとめたものです。ここに出てくる様々なエピソードは読んでいると仰天というか、なんとも言えない怒りと絶望感が湧いてきます。そして驚く事にこれらがそれもほど昔でもないエピソードを含んでいる点です。分野は医学や数学などさまざまな分野に及び、結果的に夫婦なども含めた一生を記す形になっています。また情報技術関連ではグレース・ホッパーが取り上げられています。
面白そうな本が届いた。 pic.twitter.com/knk2r53IOH
— Yusuke Ando (@yando) February 14, 2019
出だしからいい本だ。
— Yusuke Ando (@yando) February 14, 2019
「女の子向けのレゴは、みんなお家で座ったり、海辺やお店に行ったりします。女の子には仕事がありません。でも男の子向けの
レゴは冒険をしたり、働いたり、人を救ったり仕事をしています」 pic.twitter.com/h9xG8wjZTS
「コンピュータの誤作動をバグと呼ぶたびに、我々はソフトウェアの貴婦人に会釈をしなくてはならない。」
— Yusuke Ando (@yando) February 14, 2019
「許可をもらうより謝る方が簡単はホッパーの哲学である」 pic.twitter.com/qeAMkKvVJQ
日本でのフェミニズムについて
戦う姫、働く少女 (POSSE叢書 Vol.3)
こちらの刊行が2017年と新しく平成末期の情勢を踏まえた上での日本のポストフェミニズム、ジェンダーについて映像作品などを題材に論じています。読みやすい書籍ではありますが、前提知識として「お姫様とジェンダー」で触れられた問題やジブリ作品、最近のディズニー映画、おおかみこどもの雨と雪など取り上げられる作品を見ていないと面白さが半減します。
漫画作品やアニメとジェンダー、フェミニズムに関する話題は定期的に浮上しますが、前述のお姫様とジェンダー、そしてこの一冊を読んでおくと俯瞰して考えることができると思います。
戦う姫、働く少女 (河野真太郎) 読了。
— Yusuke Ando (@yando) September 22, 2019
アナ雪、ジブリ作品、逃げ恥などのさまざまな娯楽作品を題材にポストフェミニズム時代を論じた作品。アニメ作品やフェミニズムに関する著作物(お姫様とジェンダー、リーンイン)などを読んだ事があるとすごく面白い。https://t.co/prWpl8K0dL pic.twitter.com/JmVxcT9NWj
日本のポストフェミニズム :「女子力」とネオリベラリズム
こちらの書籍は現在の日本のフェミニズムに関連する状況をいくつかとトピックに分けて論じている書籍です。タイトルにもなっている通り「女子力」という比較的新しく、多くの人がカジュアルに受け入れている価値観が伝統的な性別役割分業を再固定化しているのではないかという問題提起が多いです。こういった状況が所得の上がりづらい日本の状況、婚活といったトレンドなどが複合して女性を更に追い込んでいるのではないかという論説は説得力を感じます。また女子力に関するアンケート調査等なども入っているので自分自身の「女子力」という概念に対する理解を確認することもできます。
日本のポストフェミニズム読了。
— Yusuke Ando (@yando) October 18, 2019
自分の考えが整理された。様々な現象への違和感が言語化できた。
ダイバーシティ、ジェンダー、フェミニズムのそれぞれの違いを考えるきっかけになる。
IT業界での女性に関する様々な取り組みが実際は男尊女卑を再推進しているのと変わらないリスクもある。 pic.twitter.com/ThFOS9GqzW
世界におけるデータなど
性とジェンダー(別冊日経サイエンス)
こちらは書籍というよりは翻訳された雑誌記事です。科学的なデータから見る性自認、ジェンダーと学術分野の関係についていろいろなエリアをカバーしています。「遺伝子だけで性別は決まらない」「才能を重視する学問におけるバイアス」など興味深い記事が多かったです。また世界初のプログラマーとして知られるエイダ・ラブレスについて詳しい記事が乗っています。
性とジェンダー、ざっと見。日経サイエンスだけあってデータが目白押し。
— Yusuke Ando (@yando) November 1, 2019
さまざまな学術分野などでマイノリティにバイアスがかかっていることや、性差や性自認についても詳しい。 pic.twitter.com/2mSMaNgyYe
子供向け
Girls Who Code 女の子の未来をひらくプログラミング
こちらの書籍はストーリー仕立てでさまざまな少女がプログラミングを活用していく読み物になっています。プログラミングを男の子だけのものにしないことに注意を払っており、女の子に興味を引きやすい展開になっています。コンピューターやプログラミングへの興味が男子に強く関連付けられれていると思われる状況で、こういった入り口を用意しておくことはとても重要かと思います。
まとめ
男女間の格差の是正に関する議論は本当に歴史が長く、様々な視点や論説があります。SNS上などで多くの議論を呼んでいますが、多くの話題が既存の論説や事例でカバーされていたり、類似している部分があります。特にこういった活動や話題に興味がある方は参考書を色々と読んでみることで新たな気付きがあるでしょう。
また自分自身の中にある無意識的なバイアスや性別役割分業意識のようなものを発見するというのも興味深い体験です。
その他の記事
サンフランシスコで見た女性とプログラミングの歴史の講演でこういった活動を知り紹介しました。